お菓子をくれなきゃ悪戯だ!
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


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ディズニーランドのパレードが豪華だ、とか、
いやいやUSJのアトラクションもなかなかの凝りようで、とか、
歴史で言えば、川崎市の仮装パレードが規模も凄くて有名だ…とか。
日本にもガンガンと定着しつつある“ハロウィン”は、
キリスト教の、正式な…といいますか、
古来より続く結構メジャーな宗教行事でもありまして。
このお話の中でも、いつぞや くどいくらいに解説しましたので、
今回 詳細ははしょりますが、

 「10月最後の晩に 冥界からあふれ出す亡者を迎え撃つために、
  モンスターに仮装したまま
  夜通しで はしゃいで番するのが本来のお祭りですよね。」

よって、本場では子供らまでもが、
夜更けまで“キャンディ下さい”とご町内を回るそうだけど。
そこはそれ、日本って仏教徒の国だしィ、
宗教的なところへの理解が どこまでついてってることなやら。
平日だったりすれば尚のこと、
さすがにそこまでは徹底しちゃあいない。

 「大晦日みたいにはいきませんか。」
 「まあねぇ。」

ちなみに、
大晦日の晩は子供も夜更かししていいとされているのは、
新年との境をまたぐ特別な晩だから
子供だってその境目を体感したかろと親が甘いことを言ってのこと、
…なんてな曖昧なもんじゃなく、ちゃんとした宗教的な事情があるそうで。
この晩に長く起きていられればそれだけ寿命が延びるという
古くからの言い伝えがあるのだそうな。
季語にも“年守る”“年籠もる”というのがあって、
寝ずにいてそのまま、初日を拝み、
元旦を迎えるのをよしとしたのでしょうね。

 「いきなり来年の話になってますが。」
 「シチさん、早速笑わなきゃ。」
 「それって“鬼ユリ”だからですか?」
 「…っ。(おおお)」
 「久蔵殿も、そうまで素直にウケないの。」

放っておいたら
どんだけ余談でKB容量の無駄遣いをするのやら。(苦笑)
ハロウィンのお話はどこさ行っただ、あんたたち。

 「(あんたが言いますか、それ。)
  宗教的な意味合いは さておき…のクチであれ、
  スケジュールに幾らか融通の利きそうな大人なら、
  夜通しのパーティーもありかも知れませんね。」

それこそ、飲むため集まるための名目にしてという格好の、
ハロウィンパーティーは多かろし、

 「自由が利く学生層とか、
  明日も仕事じゃあるけれど
  一晩くらいの徹夜は平気っていう若いOLさんとかなら、
  そういうののオールナイト系の催しへも参加しそうですよね。」

昇降口を出た途端に襲い掛かった寒風へ、
きゃあんvvなんて身をすくめつつも、
お顔の方は ほこほこと笑顔満面。
下校時刻とそれから、
ここいらの住人の皆様へ“五時ですよ”というのを知らせる、
聖堂の鐘の音が寂寥感をたたえつつ鳴り響き。
そろそろ届け出のない人はご帰宅なさいませよと、
準備作業に熱中している生徒らへ
無粋ながらも声をかけて回っているシスターとすれ違えば、

 「ごきげんよう、シスター・アミリア」
 「ごきげんよう。」
 「……。」

ご挨拶と目礼という格好の会釈、
周囲に居合わせたお嬢様がたが、
思わず立ち止まり、そのままほわりと見ほれたほど、
それは優雅に品よくご披露しつつ。
話の内容は…結構 下世話ってのは詐欺かも知れぬ。(笑)

 「下世話っていうほどじゃないですよぉ。」
 「そうそう。」

いくら こういうお嬢様学園に通ってたって、
私たちとて多感なお年ごろの女子高生ですからね。
そうですよ、
春霞だのバラやスミレの砂糖漬けだけ食べていて、
いつか歯並びのいい 良家の王子様が、釣書持って現れる…なんて、
微妙に現実的な妄想に浸って生きてる訳じゃありませんもの、なぞと。
さすがはしっかり者揃いの三華様がた、
伊達に暴漢どもを伸して来た訳ではない、
がっつりと頼もしい立ち姿で駅へと向かう通りを進み…かけ。
途中で横道へ入ったのは、
ひなげしさんの下宿先、
八百萬屋さんへ寄り道するためかと思いきや、
そこにはチャコールカラーのセダンが停車しており。

 「もうお迎えが?」
 「……。(頷)」

彼女には見慣れた車なのだろう、
久蔵殿がそのままの歩調で近づけば。
車の後ろ側で待っておいでだった運転手の方が現れ、
ささどうぞと後部のドアを開いて、
お友達へも優しい笑顔を見せて下さる丁寧さ。
お世話になりますとのお愛想を返し、
足元そろえて品よく乗り込めば。
セダンはなめらかに始動し、目的地へと向かう模様。

 「…あ、どうしよう。気持ちよすぎて眠いかも。」
 「こらこら ヘイさん。」
 「………。(…同上)」

それぞれに授業にも出たし、
白百合さんは朝の練習もこなした。
放課後には各々の部での役割上、
当日の演目や展示物などなどへの進行を見つつ、
準備実行委員会での申し送りもありの、
それから来賓館での設営の仕上げをしのと、
結構忙しかったものだから。
学校帰りの歩きをすっ飛ばしての
居心地のいい、暖かい車中とあって。
睡魔がおいでおいでをして来ても
そこは しようがないのかも。
うとうとしだしたひなげしさんと紅ばらさんに挟まれ、
あらまあと苦笑をこぼした白百合さんだったが、
ふと…視線に気づいてお顔を上げれば、

 「  ……あ。」
 「お帰りなさい、お嬢様。」

バックミラーに写っていた目元が柔らかくたわめられていて。
しかもこの声には聞き覚えも…。

 「良親様? ……あ、そか。」

表向き、某ブライダルチェーンの御曹司という身でありながら、
警視庁勤務の刑事である勘兵衛らさえ振り回すような、
謎の顔もお持ちだとかどうとかいう
微妙な話も聞かないじゃあないお人。
彼もまた、ちょっぴり不思議な前世の記憶を持つ“転生人”であり、
しかも七郎次にとっては、
前世で同じ戦場に同じ部隊の仲間として立っていた同士でもあるという、
奇跡的と呼べるほど稀なる縁を持つお人であり。
今現在は、ホテルJに関わりを持つ身だからか、
久蔵お嬢様の護衛役も時々こなしていると聞いている。
今世での彼との再会は、
久蔵が仲立ちしてくれたようなものかも知れぬと
常々思っていた七郎次ではあったけれど、

 「そういえば、良親様、
  久蔵殿とお見合いなさったことがおありだそうですね。」

 「うん。」

別段 隠すことでもないと、
あっさり是と応じた美丈夫さんは、

 「ホテルとの契約があったからって特に強要されたって訳じゃなし、
  逆に、僕から旨み欲しやで言い出した訳でもなくってさ。」

知人の中から年頃に無理のなさげなお人をと、
単純にピックアップした中に入ってたらしくてね。
ご縁が出来ればよし、ダメでもまま経験になりゃあよしかという、

 「まさに“お試し”感いっぱいだったんで、
  却って気楽にお相手させていただいたんだよ。」

危なげのない運転をしつつ
あははという軽やかな笑い声さえ立った気がする、
あっさりとした言いようだったが、

 「でも、久蔵殿にしてみれば、一応は緊張だってしたでしょに。」

だってまだ中学生の頃のことと聞いているし、
だとすれば、
兵庫へも恋心までは自覚してはなかった時期だろうから。
殿方や恋愛だのへも関心があったかどうかという
まるきり無垢な頃合いだったろに。
後継者ならば さほど遠くない先にはお婿さんも必要なんだよと、
不意にリアルなことを、しかも御両親から言われたようなもの。
さぞ どぎまぎもしただろうにと白百合さんが案じれば、

 「…別に緊張は。」
 「お…。」

ほぼ自分の肩口へ凭れかかっての、
すっかりうたた寝しているものと思ってた
紅ばらさん本人のお声がして。
ありゃと見下ろせば、
けぶるような金の前髪の下、紅色のお眸々はうっすら開いておいで。

 「じさまから、」

  何ですて、
  付き合って損はない
  面白い奴と逢わせてやると言われていた?

だから、お見合いという名の、
結婚に通じるかも知れぬ意味深なお席だという自覚は、
ほぼなかったのだよと。
けろんとした顔でいるお嬢様なのはともかくとして。

 「…おシチちゃん。
  よくもまあ、そこまで詳細に把握出来るねぇ。」

 「はい?」

やっぱり眠いのか、
もしょもしょ口の中で何か言ってるような、
いやいや鼻歌かも知れぬという程度の、
そんなお声しか立ってはなかった。
なのに、彼女が復唱したのが
ほぼ間違いのないことだったので、
物凄い“通辞”がいたもんだと
今度は感心しての苦笑を洩らす良親であり。

 「あらだって、運転席は遠いから。」

それで聞こえなかっただけですよぉ、
もうもう大袈裟なんだからと、
ころころと小声で微笑った白百合さんだったが、

 “いえいえ、こうまで間近い私にも聞き取れませなんだ。”

私も起きてると言い出しても何だなぁと、
こちらも寝たふりのまま聞き手に回っていたひなげしさんが、
内心でのツッコミを入れるのも相変わらず。(あはは)
久蔵殿との以心伝心(?)は
相変わらずに最強レベルだよなぁと感心しつつ。
良親様といや、
丹羽さんとかいうシチさんの元同僚さんだったよなと、
そこのところを思い出してもおいで。

 “えっと確か、佐伯さんとはオシドリ夫婦。”

  ……それも言うなら
  双璧とかお神酒徳利とかじゃあないでしょか。(笑)
  日本語に長けているのやら、今イチ惜しいのやら、
  こちら様も ある意味“微妙”な、
  ヘイさんだったのでありました。





     ◇◇



今回は単なる運転手でしかなかったらしい良親さんが
三華様がたをお連れした先は、
M区のランドマークにして、セレブリティの集う超有名ホテル、
三木コンツェルンの主塔格でもある ホテルJであり。
正面から入ってのロビーで待ち受けておいでだったのが、
久蔵お嬢様へいまだに“ママ”と呼ばせたがっておいでの、
それは麗しい支配人、三木夫人。
ホテル業界という荒波険しい世界で、
夫の父御を夫婦で支え、
今の財閥にまで成長させた主幹筋の筆頭でもあり。
海外からの来賓を山ほど招いて知名度を上げたり、
各界の著名人から、
此処へ来るのがステイタスだ最高のバカンスだと言われるよう、
スタッフ教育やサービスの質への改革にも斬新な手を入れた、
そんな伝説の女傑にしては。
普段のお顔は気取りがなくての若々しく、
一人娘のお友達へも気さくに接して下さる明るいお人。

 「草野さんも林田さんも、
  急なことへお呼び立てしてすみませんね。」

ロビーの奥向きに広がるラウンジカフェの、
中庭を見渡せる特等席まで導かれ。
ケーキやスコーン、サンドイッチにマカロンにと、
ホテルのパティシェ渾身のスィーツに、
キャラメルマキアートやらカフェラッテなど、
珈琲の香りも芳醇な、
ホットドリンクも取り揃えられたテーブルにて。
明日に差し迫ったハロウィンの催しに関する、
急な助っ人募集のお話を伺うこととなった三人娘であり。

 「ディナーパーティーとしてのハロウィンパーティーも、
  一昨日の日曜に企画して、
  昼の部・夜の部ともに、無事片付いたのですけれど。」

そちらはあくまで一般向け、
お子様連れのファミリーで楽しんでいただこうという企画であり。

「それとは別物の、
 とある企業さんが催されるハロウィンパーティーというのがあってね。」

海外からの利用客も多い当ホテルとしては、
10月末日という正統な当日にも
それなりの催しを仕立てたいとする宿泊客が毎年お目見え。
個々にスィートやラウンジの一角を借りての
パーティーを開かれるというお客様も多く。
今年はなんと、大広間での仮装パーティーというの、
ディナーと宿泊プランつきで企画したところが予約を入れて来たそうで。

 「取引先の方々を招いてという、
  立食風、バイキング形式のパーティーになさりたいとか。」

普段からもご利用いただくご贔屓筋の大商社。
ありがたいことには、
個人でのご利用下さった顔触れもたんとお越しの、
随分と豪勢で煌びやかな宴となりそうではあるのだが、

 「海外からの賓客の中には、
  あなた方をよく覚えておいでの顔触れも多くって。」

いやいや、
わざわざこの催しのために来日したよな酔狂な人々じゃあなくて。
主演映画のキャンペーンだの、新企画のプロモートだの、
はたまた国交関係の訪日だので、
たまたま、来日してらした顔触れなのだけれども。
親日派の皆様はそのまま、
久蔵お嬢様や、そのお友達の美少女たちへも、
逢えるものなら再会したいとの打診を
さりげなく寄越して来なさったそうで。

 「あらあら。」
 「まあまあ、そうでしたの。」

国際的知名度のある映画監督だの俳優だの、
新進気鋭の起業家として話題を振り撒いた遅咲きの実業家に、
ひなげしさん垂涎の工学機器畑の新鋭の某氏だの、
某国からの外交大使で、バレエ愛好家の某女史だの。

 「あ、Mr.Aも来られるのですね♪」
 「B夫人も。」
 「いやん、C博士ったらどんな仮装をするのでしょうかvv」

ほんの一言だけで世論をあっさりと翻弄出来たり、
属する業界を掻き回せるほど影響力のある御仁の数々を、
お友達感覚で“仲良し”扱いしている女子高生たちってどうよ。(苦笑)
今までそっちがちいとも話題に上らなかったのは、
前世から縁のある保護者の皆様にすりゃあ、
物騒な事態へ巻き込まれちゃあ、
十代の少女とは思えぬ鮮やかな冴えや、
暴れっぷりで切り抜けて来たってことの方が
途轍もないことだったからなんでしょな。(う〜ん)

 「でも、キャンディガールというのは何でしょか。」

こちらからも親しくしていただいてる
おじ様がたやお姉様とお逢い出来るのは嬉しいこと。
お手伝いをというご依頼へも、勿論 構いませんよとしたものの。
ハロウィンにそんな役どころってあったかしらと、
ホイップクリームを浮かせたカフェオレを、
甘いし暖かいのvvと、
ホクホク顔で堪能中のひなげしさんが尋ねかければ。

 「ええ、ハロウィン自体にはあんまり関係ないかしら。」

にぃっこり微笑ってあっけなく言い放った、
三木さんチの大奥様。
久蔵殿を思い切り朗らかにしたら、
案外とこういうタイプになるのかも知れぬ、
底知れなさでは桁が同じような気がするおば様の言うことにゃ。

 「パーティーのホールの中を、
  キャンディの入ったバスケットを提げて回る役どころなの。」

 「え…っ。」
 「まさかそれって、」

 ウサギのお耳つきのカチューシャに、
 丸ぁるい尻尾のついた水着みたいなカッコしてでしょうか。

 いやぁねぇ、
 良家のお嬢様にそんなとんでもないことさせられません。

 ……という、お約束のやり取りを挟んでから、

 「本来だったらお客様として
  お招きするべきお立場の方なのに恐縮ですが。
  開催の乾杯をするまでの間だけ、
  黒猫を模したゴスロリ衣装で
  立ってていただく係をお願い出来ませんか?」

回りくどい言いようはお嫌いか、
だとしたら、久蔵殿はお母様似なんだなぁと、
つくづく実感させられたほど、
簡潔にして判りやすかった そんなご依頼の文言であり。
勿論のこと、アルバイト代もお約束しますし、
夕ご飯とお迎えお送りの車も出させますと、
至れり尽くせりの条件まで出されずとも、

 「ええ、そのくらいでしたら。」
 「喜んでお役に立ちますわvv」

他ならぬ大好きなお友達のお母様からのお願い、
聞かずしてどうしましょうかと。
白百合さんもひなげしさんも、
一も二もなくの快く引き受けたのはよかったが……。


  何も起きなきゃあいいんですけれどもね。ねぇ?






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  *実はネ、
   久蔵殿のお母さんが ユキノさんだったら、とか、
   考えんでもなかったんですよね。
   でも、そうなると、
   ゴロさんやヘイさんはともかく、
   勘兵衛様は紹介されてぶっ飛んだんじゃなかろうか。(う〜ん)
   そしてシチさんは…思い出していたら やっぱ複雑なんだろなぁ。
   それもあるけど、
   久蔵殿の周囲へばかり
   “おかん”属性の人 集まり過ぎになるので、(大笑)
   まだまだユキノさんは ご登場見送りです。
   シノさんとか オカラちゃんも出してなかった、よね?
   サナエさんはシチさんの叔母様として出ていただいたけど…。
   あ、キララちゃんて出てたかなぁ?(こらこら)

  *追記;
   キララちゃんは小町くんのお姉さんとしてもう出てましたよと
   お教えいただきました。
   すいません、うっかり者でして…。


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